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著作 (金融政策と為替)

2019年3月4日発売。

eリサーチ&インベストメント著作。(画像リンク)

 先進国における中央銀行の金融政策と外為市場の相関性を解説した基本書。

2月第2週の急落について ‐欧州金融不安と米イールドカーブの下方シフト‐

今年3本目の記事になります。

 

前回記事、「1月FOMC前夜」では、①1月FOMC ②Q4GDP速報値 ③イエレン議会証言 の3つはどれも日米株価の反発要因にはなり得ないように思え、それに加え ④日銀が何かやっても株高円安は一過性に終わる(だろう) とさせて頂いた。

 

今週に入っての金融市場の急落は、元々の要因であった原油安や中国経済の低迷に加え日銀のマイナス金利政策と欧州からの金融不安が、市場の落ち込みに拍車を掛けた、という事になっている。(ここまでTVレベル)


欧州発案の階層型マイナス金利政策

 

大枠の意味ではそれに異論はないのだが、周知のとおり、欧州中央銀行(以下ECB)のマイナス金利政策と日銀のそれは、「階層型」であるか否かのところで違っており、ECBの場合は中銀預金ファシリティ残高に加え、リザーブアカウント(当座預金残高)における超過準備の箇所、全てにマイナス金利を適用するという荒業を見せた。

 

つまり、ECBが欧州金融システムにおける過剰流動性全体にマイナス措置を適用 したのに対し、日銀は当座預金口座のごく一部の余剰箇所に適用しており、日欧のそれを「マイナス金利」と一くくりに論じる事はできない。

 

ECBのドラギ総裁にかぶれる(憧れる?)日銀の黒田総裁は、昨年、欧州で議論になったこのアイデア(階層型マイナス金利政策)を、1月下旬の日銀会合で適用する事を決定した。当初、黒田総裁は「付利をいじるつもりは無い」と明言していた事で、「サプライズといっても嘘の上でのサプライズ」と非難ゴーゴーとなったわけだが、ERCレポート(有料版)では、この「階層マイナス金利政策」の実施の可能性に触れていた。

 

前回ブログ記事(1月25日)では「市場に反転の兆しは無い」という事を主旨としていたが、そういう背景が漂っていた事も、(スタンドプレーの好きな)黒田総裁が何かやってくる可能性を強くした。 彼自身が「付利は扱わない」と言わずとも、当座預金残高をターゲットとしている以上、欧州のように(超過準備含めた)過剰流動性全体にマイナス金利を適用できない事は、2013年当時より明らか であったが、(前述のように)彼の性格上、何らかのサプライズを打ってくる可能性は残されていた。それはバズーカ第2弾の時に証明されている。(この時も、表決は5対4だった)

 

がしかし、現状を踏まえれば、日銀の追加緩和余地は限定的であり、「マイナス金利政策」もできないとなれば、欧州発案の「階層型」にするのではないだろうか、という推考余地は残された。年明けからの円高基調が、そのような思惑をますます深める事になった。



黒田日銀の誤算

 

ただ、よく分からなかったのは余剰部(約10兆円)にマイナス金利を適用したところで国債金利がどこまでマイナス反転するのか、という懸念が残されていた。 総裁としては円安反転するため、「マイナス金利適用」という言葉のインパクトに懸けたところがあったのではないだろうか。 結果、彼の思惑通り、諸々の金利は低下したが、銀行株は、欧州金融不安も手伝って政策発表時から急落した。ただ、総裁自身が言ったように、階層型のマイナス政策自体は欧州のそれとは違い、銀行システム全体を傷付けないよう配慮したものだった。

 

ここまでは彼の想定内だっただろうが、円安反転・株高へ、といった実質上の目的は果たせないどころか逆を行ってしまった。いわば踏み上げを狙った階層マイナス金利政策は、米国の金利が総じて低下している中では何の手立てにもならなかった。米国の債券市場は過去に75円台をつけた時の地合いと似ている状況であり、彼(黒田総裁)はここまで分からなかったのではないだろうか。

 

 

昨年末から米国のイールドカーブはフラット化、という事もそうなのだが、短めの方が急低下した事で一段下にシフトしている事が分かる。(上図)

 

米国は、利上げ直後にも関わらず、2年物(利回り)が急低下しており、日本のマイナス幅はかき消される事になった。(事前に予測できなかったのだろうか)  前回記事にて、マイナス金利の可能性は推考できていたものの、(前述のように)実行したとしても階層型の可能性しか残されておらず、適用範囲は欧州のそれとは違い限定的かつゼロからの10bpの引き下げ(-0.1%幅)である事は明白であった。

 

米国のリセッション時以降、緩和政策、というか厳密には長国債の買取政策が途切れた時には必ずと言っていいほど長短金利(2年・10年物)も低下していて(上図、赤枠4つ)、これは景気に対する見通しが悪い事を示しており、ドル円もこの時期は低下する、という経験則が存在する。過去最高値、75円台を付けたのは左から3つ目の時期(赤枠)になる。前回記事の末端部だが、日銀は政策発表するには地合いが悪かったといえるだろう。



欧州金融不安が米国の金利低下を助長

 

今年に入ってそのような現象が生じていた事もあり、「(日銀)何しても一過性」としていたのだが、今回の市場の沈下は欧州の金融不安が対外債券投資、つまり欧州株から米国債へスライド的な資金流入によって、米国債のイールドカーブが下落シフトした事が発端となっているように映る。

 

つまり、原油安や中国懸念で昨年の利上げに疑念の目が向けられていたところに、欧州金融不安からの米国債買いで、更なる(米国債)利回り低下が加速した。日銀の「マイナス金利」という言葉も欧州銀の収益悪化、の要因と見做されているため(少なくともメディアでは)、日銀のマイナス金利政策が日本株の下落を助長した、という論調も散見された。ただ、前述のように日本の場合は階層型の為、政策金利残高(だっけ?)に適用されたマイナス金利による銀行収益悪化は、どれ程のものなのか不透明な部分が残される。

 

明言できるのは、今回の市場急落は、(市場に根付いている)原油安と中国懸念、そこへ欧州株から米国債券市場への資金シフトによって、米国のイールドカーブが一段下落したことに端を発しているという事。このような時の急激な円高は過去が証明しているし、日本株もそれに応じて下落する。(2月9日の無料版レポートでは米国の過去160年の歴史を挙げており、ぜひ参照して頂きたい)


次なる欧州の一手

 

ちなみに、3月の欧州理事会にてECBは次の一手を打ってくる、と云われている。その中軸は「マイナス金利の拡大」となっている。

 

欧州金融危機が囁かれる中、マイナス金利を更に引き下げてくる、というのはECBが物価上昇率に拘っている証だといえるだろう。 銀行収益を圧迫する、といわれている当政策だが、(冒頭で述べたように)欧州の場合は(日銀と違って) 過剰流動性全体にマイナス金利を適用しているので、マネーサプライの拡大(融資拡大)という効果は少なからずあった。

 

 

中銀預金ファシリティのみならず、リザーブアカウント余剰部にもマイナス金利を適用したのは14年6月。(上図、赤線) 結果、そのトレンドを見て分かるように、家計含む民間セクターへの融資は前年比でプラス圏内に急上昇している。 ただ、昨年後期(グレーゾーン、右は拡大図)は、トレンド低迷しており、結果として物価上昇率が鈍っている、ともドラギは考えているようだ。

 

金利を連続的に引き下げるのではなく、逆に、日銀のように(欧州発案だが)、階層マイナス金利にすれば、緩和政策から一歩退く事になり、金融不安は後退するとの見方があるが、ドラギの姿勢はマネーサプライの拡大と物価上昇に軸足を置いているように見える。



CDSスプレッド高騰と欧州株下落のセット (オマケ)

 

パリバショックからリーマンショックへと連鎖した過去、米国の金利は総じて低下した(冒頭図)。とともに円高シフトは鮮明になった。当時は住宅ローン担保証券(RMBS)などを再証券化したCDO等が主役となったが、今回の欧州銀行不安は、エネルギー価格が低迷している事から、マイナス金利の収益減に加え、エネルギー関連企業へのリスクエクスポージャーが不透明だという事もいわれている。

 

このような「危機」に決まって登場するのがCDS取引だが、欧州銀のCDSスプレッドが高騰したことが金融不安を一層煽っている。欧州株式や国債の下落とCDSのワイドニングといえば多少臭い 、と感じなくもない。過去に度々触れたように、GS等の米投資銀行を連想 させるし、ギリシャ粉飾の際には現ECB総裁(ドラギ)は、ゴールドマンの副会長をやっていた(2002‐2006)。このような危機のさ中、平然と金利を引き下げる準備があるのは、そのような背景?があるからだろうか。(失礼)

 

昨年もSECがCDSについて、その価格設定や投資家にリスクを不正移転するような特殊な取引について念入りに調査 していた。この事についてはまたいずれ。


>そういえば、昔は2月第2週が危険 、というような記事を書いていた。(その後に8月中旬の方が危険だと分かったが) 今回はCDS等の事も含め、表に出てこない色んな要素が重なっていたのかも知れない。